その9(10話)81【強打者】 ピッチャー星山、振りかぶってえ、第一球投げたあ。 バッター右門、フルスイング。 カッキーン! 打ったあ。わあああ、大きい。大きい大きい。 あっというまにセンターの頭を超え、場外ホームラン。 バッターは観客に手を振りながらゆっくりとダイヤモンドを周っています。 あっ、バックネット上空に白い物体! ああ、ボールのようです。 あっあっあああああ、セカンドを周ったバッターの頭に当たったあ。 守備妨害でバッターアウト! 記録は二塁打……かな? ------------------------------------ 82 【プロ野球中継】 実況アナ:「さあ、七回表、ツーアウト満塁、カウントはツースリー。 ピッチャー星山、振りかぶってえ──あっ、主審が右手を突き出し、 タイムをかけました。ボークでしょうか。 主審の大谷さん、バックネットにむかって駆けていきます。 どうやら、場内マイクでただいまのプレーを説明するもようです」 主審:「わあああ、オシッコもれちゃう。八分間、中断!」 ------------------------------------ 83 【あの世~香奈枝の場合】 香奈枝がゲートボールの最中に冥土に旅立つと── ジェットコースターに乗っていた。 ……ゴトン。 「わっ!」 止まる時、ちょっとおどろいた。 「はーい、おつかれさまでした~。出口はあちらでーす」 もう一度乗りたいが、すごい行列だ。 ------------------------------------ 84 【痴漢】 おれ、痴漢。満員電車専門のおさわり常習者。 でへへ。さあ、きょうもやったるでー! お、このネエちゃん、いいケツしてる。 ジーパンの割れ目がなんともいえねえ。 そそるぜ。なでなでしちゃおう。 すりすりすり……、もみもみもみ……。 でへ、でへへ。 あ、ネエちゃんがよこむいた。おや、ノドぼとけが膨らんでる。 オェ~、男だあ! うわあ、な、なんだなんだあ。 なでていたお尻から煙が──、頭上で人のかたちになったぞ。 「はいはいさあ! ご主人様ぁ!」 魔王だあ。 「私、“アラジンのランプ”ならぬ“あらチンの臀部”の精です。 なんなりとお申し付けを」 ------------------------------------ 85 【バードウォッチング】 傷心の旅に出たバツいちオトコ。湖のほとりで。 「あっ、オシドリのつがいだ。いいなあ、仲がよくて」 「あっ、人間の男だ。いいなあ、ひとりで」 「あなたぁ! そこどいて! じゃま、じゃまぁ! まったく、もう、子供ができたっていうのに 役立たずのダメオちゃんなんだから。 巣の修理ぐらい、やってちょーだい」 筆者注:「鴛鴦(えんおう)の契り」とは仲のよい夫婦の例えに用いるが、 実際には繁殖後、卵やひなの世話はメスだけがおこなう。 「野鳥(永岡書店)」より。 ------------------------------------ 86 【あの世~数子の場合】 太木数子がフグの毒にあたって地獄に堕ちると── 「よっ! 同志!」 道鏡がいた。 「これ、うちの会則。よく読んどいて。 あっ、それから、もうすぐ麻原や江原、大川、池田らがくるから、 そん時は指導にあたってくれ」 ------------------------------------ 87 【ある日】 空が轟き、全てが終わった。 ビッグバン以来膨張し続けていた宇宙が破裂したのだ。 ------------------------------------ 88 【競争】 彼らは、おなじ部屋に配属された。 「オレのほうが速いぞー」 「いや、ボクのほうこそ速いぞー」 競争心むき出しで働いた。 ◇ 「あれれ。両方ともおそろしく進むなあ」 ポイッ! 2つの時計は、捨てられた。 どんな組織にもいるでしょう、本末転倒なやつら。 ------------------------------------ 89 【あの世~西さんの場合】 うちのむかいの原色ババア(*注)が、 いつものように真っ赤なエプロンをして、 頭のてっぺんから黄色い声を発しながら 近所を徘徊している最中に、 脳内の血管がブチ切れて息絶えると── 「ほにゃにゃちは~の、へにゃにゃちは~! 1+1 は~ 6ですよ~! 鼻クソ食べたら、こめ食ってチュウ、チュウチュウチュウ。 くしゃみをしたら~ きょうのおかずは何にしようかしら~。 コマネチッ! だよね~! 畳屋さんの………」 死んでも治らないようだ。 (*注)原色ババア……西さん。筆者宅の向かいの奇人。 せいやんワールドの貴重なキャラクター。 ------------------------------------ 90 【夏の虫】 「ったく、うるさいセミだなあ」 「おれたちは必死に働いてるっていうのによお」 芝杉の下で、アリたちがぼやいています。 「あっ、しずかになった」 「あいつ、どうやらメスといちゃついてるようだぜ」 ジジィ~。 ぼたっ! 「あっ、落ちてきたぞ!」 「アリさんアリさん。今までうるさくしてごめんよ。 さあ、ぼくを食べなよ」 「な、なに言ってんだよ」 「ぼくは、せいいっぱい生きたから、もう、いいんだ」 「セミく~ん」 「さ、よ、な、ら」ジジジジッ! ジャンル別一覧
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